商品・サービスが生産者から消費者に届くまでの取引の流れのことを、商いの流れ(省略して商流)と呼びます。
商流は日々変化するものではなく、特定の会社から仕入れることで、安定した品質・価格・納期を実現しています。
本記事では、企業間取引で商流がある理由から、他国と比較した際の特異性・問題点について解説します。
商流がある理由

企業間取引の多くに商流が存在する理由は、「商品をどこから買うか」よりも「誰が商品の責任を負うか」が重視されるためです。
企業間取引は1件当たりの金額・ロット数が大きく、「商品の問題」は当事者だけでなく消費者(エンドユーザー)にも影響することから、責任の所在を明確にすることは大きな付加価値となります。
責任の所在の重要性
『責任の所在を明確にする』とは、「取引規約」「自社・取引先の責任範囲」「損害賠償額」などを、取引開始前に契約書面で取り交わすことです。
これを曖昧にしたまま取引を開始すると、たった1つの欠陥で数億円規模の損失を背負う可能性があります。
リコールが起こった場合
例えば、メーカーがある会社と新規取引先口座を開設し、自社製品に使う部品の製造を委託。
後に顧客へ納めた部品に致命的な欠陥が見つかり、これまで納めた製品1万点に対しリコールを求められたとします。
- 製品単価:10万円
- 製品メーカー:資本金1,000万円
- 部品単価:3万円
- 部品仕入先:資本金300万円
資本金・部品単価を上記で想定した場合、損失額と資本金に対する倍率は以下となります。
| 項目 | 金額 | 計算 | 損失 |
|---|---|---|---|
| 製品単価 | 10万円 | 10万円 × 1万点 | 10億円 |
| 部品単価 | 3万円 | 3万円 × 1万点 | 3億円 |
| メーカーの資本金 | 1,000万円 | 10億円 ÷ 1,000万円 | 資本金の100倍 |
| 仕入先の資本金 | 300万円 | 3億円 ÷ 300万円 | 資本金の100倍 |
リコール時の損失
まず前提として、部品の欠陥原因が外注先にあっても、納入したメーカーが責任を問われます。
「外注部品を交換する」だけでも、部品代で3億円規模。顧客が「製品を回収してほしい」と求めれば、製品代で10億円規模の損失になります。
またこれはミニマムの金額であり、実際のリコール対応は部品代だけで終わりません。
発生し得る費用
- 回収・廃棄費
- 選別・交換・修理・検査・原因調査・再発防止・顧客対応工数
- 損害賠償(場合により)
民法上、損害賠償は「当事者が予見すべきだった場合」には対象になり得ます。
したがって、顧客工場のライン停止損害や代替調達費などは、契約内容はもちろんのこと、取引経緯や予見可能性によって請求される可能性があります。
つまり、企業間取引において「価格が安い」「対応が早い」だけで仕入先を選ぶことは危険であり、本当に見るべきは、信頼・透明性・財務体力・そして事故発生時の責任分担です。
与信リスク
企業間取引のリスクは、リコールの他にも倒産・廃業などの「与信リスク」があります。
与信管理で重要なのは、「相手先の信頼性」よりも「この会社が倒産したとき、自社は耐えられるか」のリスク耐性を見ることです。
企業間取引の売掛金

企業間取引では、商品を納めた時点で売上を計上しても、実際の入金は翌月払い・翌々月払い、または手形・電子記録債権などで後になります。
顧客が倒産・廃業した場合

例えば顧客が倒産すると、帳簿上は売上・利益が出ていても現金が入らず、売掛金が無くなる可能性があります。
そして仕入先がいる場合、顧客から回収できなくても仕入先への買掛金の支払いは残ります。
例えば粗利率20%の取引で1,000万円の売掛金が貸倒れた場合、その損失を粗利で取り返すには、単純計算で5,000万円分の追加売上が必要です。
1,000万円 ÷ 粗利率20% = 5,000万円
産業機械設備や工事案件では、1件の取引金額が数千万円~数億円になることもあるため、この金額を取り返すには少なくとも数年を要します。
メーカーが倒産・廃業した場合

またメーカーが倒産した場合、今度は顧客側に「納期の再設定」「代替品の選定」などのタスクが生じます。
さらにメーカーへの前渡金(製品納入前に支払ったお金)がある場合、そのお金が回収できなくなる可能性もあります。

前渡金とは、顧客が定めた検収条件を満たす前に一部の金額を支払うことを指します。
例えばメーカーが産業設備を納入する場合、設備に組み込む部品の中には他社からの購入品を含みます。
このような購入品の点数が多いと、メーカーは先に多額の支払いが生じてしまうため、設備の納期・購入品の総額次第で顧客へ前渡金の支払いを交渉することがあります。
外国との違い

外国にもディストリビューター(卸売業者)は存在しますが、日本のように製品の構想・設計段階からサプライヤーが関わるというより、既に設計されたものを製造受託することが一般的です。
設計の外注による商流の固定化

設計・製造を外部のメーカーへ依頼した場合、根幹の設計図はメーカーが保有し顧客へ開示されません。
顧客が設計図を持つ・持たない違いは、その後の権限やコストに大きく影響します。
製造コストを見直す場合
- 顧客が設計した製品:製造先の相見積もりが可能
- メーカーが設計した製品:メーカーへ見直し依頼(詳細はブラックボックス化)
製造先が倒産・廃業した場合
- 顧客が設計した製品:自社で代替品・製造先を選定
- メーカーが設計した製品:メーカーが代替品・製造先を選定
マイナーチェンジ(仕様変更)が必要な場合
- 顧客が設計した製品:依頼先(製造先)の変更権限は自社が持つ
- メーカーが設計した製品:顧客は依頼先の変更(他社への相見積もり)ができない
顧客が根幹の設計図を持つことは、短期契約で製造コストの見直しが容易なメリットがあります。
一方、設計から製造までをメーカーに委ねることは、製造コストの削減や責任の軽減に繋がります。

一般論として、専門領域はその専門業者へ外注した方が、最終的な生産性は上がるとされています。(比較優位の法則)自社の専門領域に集中でき、仕事がない月でも固定費がかからないためです。
1980年代の自動車開発における日米差
1980年代の自動車産業では、米国は「完成車メーカーが設計し、サプライヤーは図面通りに作る」ことが多く、日本は「サプライヤーに設計責任を持たせる」傾向にありました。
| 指標 | 日本 | 米国 |
|---|---|---|
| Black-box parts | 62% | 16% |
| Detail-controlled parts | 30% | 81% |
| 開発工数 | 115.5万時間 | 347.8万時間 |
| 開発リードタイム | 42.6ヶ月 | 61.9ヶ月 |
- Black-box parts:完成車メーカーは仕様を出し、詳細設計はサプライヤーが担う部品
- Detail-controlled parts:完成車メーカーが詳細設計まで行い、サプライヤーは図面通りに作る部品
但し、1990年代以降から現代にかけて、米国は「設計段階からサプライヤーが関与する方式」に移行しつつあります。
参考文献
新興企業・小規模企業の参入障壁
設計の外注による商流の固定化は、新興企業・小規模企業の参入を阻むことにより、市場の価格競争力が弱まるのが最大のデメリットです。
実際、国内の新規参入企業は大手企業と新規取引口座を結ぶことは難しく、既存で口座を保有している商社・元請・卸売業者・代理店などを経由する方が一般的です。
商流の歴史

このような流通構造が主流となった歴史的背景として、旧財閥系の商社が挙げられます。
財閥企業のネットワーク
旧財閥系の商社(三菱商事・三井物産・住友商事)は戦後GHQにより一度解体されましたが、現在でも国内の主要な商流構造を確立している商社のほとんどが、この旧財閥系の商社にルーツを持ちます。
日本独自の業態である「商社」は、インターネット・電話などが普及する以前の明治維新前後から海外取引を担い、世界的なネットワークを広げてきました。
情報化社会の現代と比べ、当時は会社の与信情報を取得するのは困難だったため、市場に明るい財閥系商社との取引に需要があったのです。
商流の固定化を助長した経緯
商流が現在まで受け継がれた経緯として、長期取引特有の「接待」や「利権」の要素もありました。
- 企業間の長期的な関係を築くために、宴席や贈答などの「接待」が重視された。
- 卸売業者や下請け企業を自社の「系列」として囲い込み、競合の参入を防ぐ形が取られた。
- 利益供与や長期契約により特定の企業との関係を強固にし、新規参入を阻む構造を形成。大手商社はこの傾向が強く、「取引先と株式を持ち合う」ことも珍しくありませんでした。
参考文献
最後に
今回は、企業間取引で商流がある理由から、他国と比較した際の特異性・問題点について解説しました。






