
- 商社に興味がある人
- 機械系専門商社に興味がある人
製造業に従事されている方にとっては身近な「機械系の専門商社」ですが、その実態はどのような仕事内容なのでしょうか。
本記事では、実際に商社で働いている立場から、機械系専門商社の仕事内容について具体的に解説します。
専門商社と総合商社
専門商社とは、「繊維」「食品」「医薬品」「機械」「鉄鋼」などの、特定のカテゴリーに限り事業を展開する商社を指します。対して総合商社は、これら特定の分野に絞られず、幅広い事業へ展開します。
総合商社・専門商社も共通して、事業規模の小さい会社は「トレーディング部門」のみで構成される一方で、事業規模の大きい会社は既存の商流を買収し、「事業投資部門」のある会社が多くなります。
専門商社の事業所数
令和5年度の経済産業省・総務省によるデータによると、主要分野ごとの専門商社の事業所数は下表の通りです。
| カテゴリー | 分野 | 事業所数 |
|---|---|---|
| 繊維 | 原材料 | 3,717 |
| 繊維 | 衣料品 | 8,371 |
| 食品 | 農畜水産物 | 30,635 |
| 食品 | 食品・飲料 | 32,023 |
| 化学品 | 化学製品 | 17,852 |
| 医薬品 | 医薬品 | 16,980 |
| 機械 | 産業機械 | 38,783 |
| 電子 | 電気機械 | 25,090 |
| 鉄鋼 | 鉄鋼製品 | 8,566 |
| 金属 | 非鉄金属 | 4,421 |
このように、日本における専門商社の事業所数は機械系(産業機械)が最も多く、その後に食品系・電子系が続きます。
参考文献:令和 3 年経済センサス‐活動調査|総務省・経済産業省
機械系商社の概要
機械系専門商社の主要顧客は、日本法人の大手自動車・航空部品メーカーです。
日本は自動車製造や航空機部品製造などの『ものづくり産業』が盛んな国のため、それを支える産業機械の市場規模も大きくなるのです。

産業機械とは、いわゆる『マザーマシン』と呼ばれる「機械を作る機械」を指します。
例えば自動車のエンジン部品の一つである「シリンダーブロック」を製造する場合、以下のような産業機械を使用します。

- 鋳造工程:溶解炉・鋳造機・冷却装置・堰切断機・ロボット
- 加工工程:マシニングセンタ・ホーニングマシン・洗浄機・搬送ローダー
- 組立工程:プラグ圧入機・オイルシール圧入機・ライナー圧入機・部品フィーダー
産業設備の役割
産業設備にはそれぞれ役割が存在します。例えば鋳造工程では、設備ごと以下のような役割に分担されています。
- 溶解炉…材料である『アルミ合金』を約670℃~760℃で溶解します。
- 鋳造機…溶解したアルミ合金を金型へ流し込み、シリンダーブロックの形を生成します。
- 冷却装置…水槽やファン付きコンベアでシリンダーブロックを冷却し、後工程へ送ります。
- 堰切断機…「堰」と呼ばれる不要箇所を切断します。
- ロボット…上記各工程に自動化したロボットが移載します。
工程の仕様によってライン構成(設備の種類や台数)が異なるものの、1つのラインにつき数十台規模の産業設備が存在し、予算額は数億~数十億円にも上ります。
産業設備の市場規模
日本の製造業は、国内全体のGDPのうち約20%を占め、他の主要各国(中国・アメリカ・インド・ドイツ)の中で、その比率は最も高くなっています。
日本における2022年の工作機械「生産額」は、世界全体で生産される全数のうち第2位となる約13.1%にも上り、また工作機械「輸出額」では、世界全体の約16.6%を占め、首位のドイツ(16.7%)とほぼ並びトップクラスとなります。
また産業用ロボットでは、世界全体の供給量の約46%を日本企業が担っており、2022年には国内で約25万7千台が生産され、そのうち約81%にあたる約20万7千台が海外へと輸出されました。
参考文献:工作機械生産額|JETRO 日本のロボット設置台数|国際ロボット連盟
機械系商社の年収
機械系専門商社の平均年収トップ10は以下の通りです。(2023年度有価証券報告書より)
総じて1,000万円は超えないものの、固定費が少なく単価の高い商材を取り扱う機械系の専門商社は、平均年収が全体平均より高くなる傾向にあります。
| 会社名 | 平均年収 |
|---|---|
| 西川計測株式会社 | 943万円 |
| 第一実業株式会社 | 937万円 |
| 岡谷鋼機株式会社 | 863万円 |
| 株式会社RYODEN | 781万円 |
| ユアサ商事株式会社 | 781万円 |
| 株式会社山善 | 787万円 |
| 株式会社トミタ | 780万円 |
| 株式会社カナデン | 772万円 |
| 極東貿易株式会社 | 761万円 |
| 西華産業株式会社 | 759万円 |
機械系商社の商流
商社は取り扱うメーカーに制限がないため、顧客の要望次第でプロジェクトそのものを担い、設備メーカーを指揮する立場に立つことがあります。


導入した設備に関する消耗品以外の部品図は、メーカーの機密情報・知的財産が含まれるため、競合他社への流出を防ぐ目的で顧客に開示されません。

よって、顧客側が既存設備の修理や改造などで依頼先を変えるには、設備そのものを一新する必要があり、通常は倒産や部品供給ストップなどの『やむを得ない理由』がない限り商流が生き続けるのです。
機械系商社の業務内容
機械系専門商社の業務内容は、担当する範囲によって大きく異なります。
「消耗品」「設備(汎用・特殊仕様)」「国内・海外」に分けて、それぞれの特徴を見てみましょう。
消耗品担当
消耗品とは、工具や塗型剤などの発注頻度が高い商材を指します。見積もりから検収(支払い)までの流動性が高いことから、「流れモノ」とも呼ばれます。
単価が低いため1件失注のダメージが少なく、かつB2B商売の流れを物量多く学べるため、消耗品の担当は新入社員に振られる傾向があります。
納品以外は「見積もり作成」や「注文書発行」などの事務仕事がメインとなる一方で、薄利多売型のため担当する顧客の数は多くなります。

消耗品を担当する場合、納品は顧客の稼働日に行うため、国内担当であれば基本的に休日出勤はありません。
但し薄利多売の商材のため、設備案件と比べると個人予算を達成しづらく、売上を積み上げるには物量を上げるしかありません。これにより、業務過多(マンパワー不足)による残業が多くなる可能性があります。
産業設備担当
上述した消耗品の検収条件は、商材を出荷した時点で条件を満たす「出荷基準」です。
対して設備案件の場合、顧客の定めた検収条件を満たしていれば検収される「検収基準」が一般的となります。

顧客が仕入先へ支払いOKとする条件(基準)を指します。検収条件は通常、顧客から見積もり依頼時に提出される『要求仕様書』に記載されます。
必要に応じて顧客・仕入先と仕様書の読み合わせをします。
必要に応じて顧客と見積もり仕様の打ち合わせをします。
必要に応じて顧客・仕入先と全体スケジュールの打ち合わせをします。
特殊仕様の設備を導入する場合、仕入先から『こういう設備を作ります』という承認図(仕様書)が届きます。
顧客へ提出し承認を貰う必要があるため、「承認図」または「確認図」と呼ばれます。
承認後、指摘項目に関しては打ち合わせで方向性を擦り合わせします。
産業設備の導入は、複数のメーカーが絡むことが一般的です。
それぞれの仕入先と連携し、『誰がいつどこで何をするのか』管理し顧客と共有します。
要求仕様が満たせているか、必要に応じて顧客と打ち合わせします。
産業設備の導入には、顧客工場の操業を止める必要があるため、顧客の非稼働日である土日や連休に行うことが一般的です。
そしてその工事は、機械系専門商社の営業が安全・進捗を管理する必要があり、つまり工事がある日は基本的に出勤になります。
通常、受注案件は何十件と担当することになるため、自身のタスクを軽減する工夫をしなければ、平日・休日ともに業務過多になります。
産業設備のタスク
例えば産業設備を1台導入する場合、見積もり作成などの事務処理以外に以下のタスクが存在します。
| 作業 | 対応者 | 会社 |
| 顧客の要望をヒヤリングする | 営業 | 商社 |
| 設備を設計する | 設計 | 設備メーカー |
| 購入品を手配する | 購買 | 設備メーカー |
| 支給品を手配する | 営業 | 商社 |
| 支給品を運搬する | 運搬業者 | 下請 |
| 設備を製作する | 製造 | 設備メーカー |
| 設備を調整する | 品質 | 設備メーカー |
| 設備をバラす | 製造 | 設備メーカー |
| 設備を運搬する | 運搬業者 | 下請 |
| 設備を横引きする | 重機業者 | 下請 |
| 導入場所の清掃をする | 清掃業者 | 下請 |
| 導入場所のケガキをする | 基礎業者 | 下請 |
| 導入場所へエア配管を延長する | 配管業者 | 下請 |
| 導入場所へ電気配線を延長する | 電気業者 | 下請 |
| 導入場所へ通信ケーブルを延長する | 電気業者 | 下請 |
| 設備を復旧する | 製造 | 設備メーカー |
| 設備を精度調整する | 品質 | 設備メーカー |
日本には『餅は餅屋理論』があるため、手配する下請業者は1社で完結できず、商社がそれぞれの専門業社へ依頼する必要があるのです。
くろひつじこれはあくまで設備1台に発生するタスクだから、もし「生産ライン」を受注したら、この他にも色んな仕事が出てくるよ。
国内・海外担当
海外担当の場合、現地カレンダー・現地時間に基づき顧客とのやり取りを行うため、こちらも平日・休日・時間外の概念なく働くことになります。
また出荷先が新興国の場合、通関手続きや工場のルールが頻繁に変わる可能性があり、現地の法務関連を案件ごとに自身で調べる必要があります。
商社は会社規模によって「法務関連専門の部署」が存在しますが、あくまで間接部門であり、顧客や仕入先とのやり取りは基本的に営業が行います。
機械系商社の付加価値
国内の製造業は、建設業と同様に『下請構造』が存在します。商社の平均粗利率は一桁台から10%前後と低めですが、単価の高い産業機械においては、そのコストは膨大になります。
このような構造の中でも、この業界で商社が仲介される理由は、相応の付加価値が存在するためです。
与信管理
産業機械は、1件当たりの取引金額が数千万円~数億円にも上るため、顧客・設備メーカー双方に相手先の倒産リスクが付き纏います。商社は取引自体を仲介し、この倒産リスクを代行してくれる役割を持ちます。


例えば金額の大きい設備を制作途中に、
- 顧客が倒産した場合…それまで制作した代金を回収できないリスクが生じます。
- 設備メーカーが倒産した場合…代替え品の選定、指定納期調整などのタスクが生じます。
なお、商社自身もこの倒産リスクを回避するため、取引口座開設前には相手企業の会社情報(法人名、法人番号/登記情報、設立年月、事業内容、資本金、従業員数など)を調査する「与信管理」を入念に行います。
与信取引
商社は、取引先に対して銀行のような『代金回収や設備に対する信用・保証』を提供します。


孫請への支払いが元請からの支払いより早い場合、下請は黒字倒産するリスクが上がってしまいます。
この状況を回避できるのが商社であり、顧客・設備メーカーとの支払い条件の調整(立替払い)や、商品の不具合による支払い延長の了承(品質保証)、また場合により追加費用の支払いも行います。
部品供給頻度
国内で製造される主要な自動車は、内燃機関(エンジン)が搭載されています。一般に「ガソリン車」の部品点数は約3万点、「ハイブリッド車」においては約3.3万点とされています。
これらの部品の多くは国内市場から供給されており、自動車の製造工程では安定した部品の『価格・納期・品質』が安定生産のカギと言えます。
この安定性を支えるのが機械系の専門商社であり、回転率の高い商材に対しては自社在庫で保管し、発注~納品のリードタイムを削減することもあります。


また部品メーカーにとっても、商社は在庫管理だけでなく配達や代金回収・納品後のフォローまで行なってくれるため、社内のリソースを削減することに繋がります。
通関・貿易実務
国内の自動車・航空部品メーカーの多くは、土地・人件費が安価な海外新興国に生産拠点を持っています。
海外の工場でも国内と同じライン構成の設備が使われており、商社は設備輸出時の輸送手配や通関手続き、またSV(スーパーバイザー)の航空券手配・保険手続きまで代行してくれます。
実際にOECDによる推計では、国境手続きの効率化だけで、貿易コストが12~18%減を見込めるとのデータがあり、これは商社の平均粗利率より高くなります。
参考文献:貿易の円滑化と世界経済|OECD


SV(スーパーバイザー)とは、現場の監督者・管理者を指します。国内設備を国外へ出荷する際、現地での据付・調整作業を要する場合には、設備の他に現地人を指揮する「監督者」も派遣することがあります。
最後に
今回は、実際に商社で働いている立場から、機械系専門商社の仕事内容について具体的に解説しました。










