仕事の現場で行う意思決定には、常にリスクと結果が伴います。そのリスクと結果を数値で表すことができるのが、期待値です。
本記事では、意思決定を数値で表すことができる期待値の計算式と、その活用方法について解説します。
期待値の計算式

期待値とは、「結果の発生確率」と「損益」を掛け合わせて合計した値です。
一般式は『期待値=Σ(発生確率×損益)』ですが、成功/失敗の二択にする場合は、『期待値=(成功確率×利益)+(失敗確率×損失)』で表します。
新規事業の一例
例えば以下の新規事業4案の中で、どの事業に参入するべきか計算してみましょう。
A案
成功確率:30%、利益:1億円
失敗確率:70%、損失:-3,000万円
期待値:0.3×1億+0.7×(−3,000万)=900万円
B案
成功確率:30%、利益:10億円
失敗確率:70%、損失:-5億円
期待値:0.3×10億+0.7×(−5億)=−0.5億円
C案
成功確率:70%、利益:1,000万円
失敗確率:30%、損失:-500万円
期待値:0.7×1,000万+0.3×(−500万)=550万円
D案
成功確率:10%、利益:5,000万円
失敗確率:90%、損失:-100万円
期待値:0.1×5,000万+0.9×(−100万)=410万円
計算の結果、最も期待値が高いのはA案となります。
新野くん成功確率が高いのはC案なのに、意外な結果だね。



もちろんこれは期待値だけの話で、判断材料にするには損失に耐えられるリスク耐性も重要なんだ。
期待値と合わせて考慮すべき条件
選択の判断材料として、「リスク耐性」も考慮します。
例えば企業A・企業B・個人のそれぞれが、A~D案の中でどの新規事業に参入するべきか考えてみましょう。
- 企業A
- 資本金:10億円以上
- 企業B
- 資本金:3,000万円以下
- 個人
- 資産:1,000万以下
| 区分 | 推奨案 | 理由 |
|---|---|---|
| 企業A | A案 | 期待値が最も高いため |
| 企業B | C案 | 3,000万円の損失に耐えられないため |
| 個人 | C案またはD案 | 500万円の損失を許容できるならC案、難しいならD案 |
このように、期待値が高くてもリスク耐性がない場合には、C案やD案が優先されるケースもあります。
情報の精度が重要
期待値を比較するうえで最も重要なのは、比較材料の精度です。
必要なサンプル数は、許容誤差・信頼水準・母集団規模・抽出法・回答率によって変わります。
例えば95%の信頼水準で±5ポイントを目安にする場合、単純無作為抽出では384前後のデータが一つの基準です。
参考文献:標本調査では、全体からどのくらいの数を抽出して調査すればよいのですか|鳥取県総務部統計課
期待値が用いられるシーン
期待値は「その決定を何度も繰り返したとき平均的に起こること」を表します。
特に同じタイプの意思決定を繰り返す場合や、限られた資源の配分先を決める場面では、期待値は重要な判断基準になります。
参考文献:意思決定分析および費用対効果分析|PubMed Central
保険料の設定
ある会社の倉庫で起こり得る1年間の事故リスクを以下のように見積もったとします。
- 何も起きない:98.0%
- 小事故(損失200万円):1.5%
- 大事故(損失2,000万円):0.4%
- 重大事故(損失1億円):0.1%
会社は次の3案を比較します。
A案
保険に入らず全額自己負担
- 小事故:0.015×200=3
- 大事故:0.004×2,000=8
- 重大事故:0.001×10,000=10
期待コスト:21万円
B案
免責500万円の保険に入る
年間保険料:18万円
事故が起きたら最初の500万円は自己負担
- 小事故:0.015×200=3
- 大事故:0.004×500=2
- 重大事故:0.001×500=0.5
期待コスト:5.5万円+保険料18万円=23.5万円
C案
フル保険
年間保険料:26万円
自己負担なし
期待コスト:保険料26万円
期待コストを比較すると、A案が最も低くなります。
しかしA案は最悪1億円の損失がでるため、1億円の損失に耐えられない会社はB案やC案を選ぶこともあります。
発注数の決定
新商品の需要を以下のように見積もります。
- 需要100個:20%
- 需要150個:50%
- 需要200個:30%
1個あたりの条件
- 売価:0.5万円
- 原価:0.3万円
- 売れ残り処分価値:0.1万円
発注量を3案で比較します。
A案
100個発注
需要が100でも150でも200でも、100個は全部売れます。
期待利益:100×(0.5-0.3)=20万円
B案
150個発注
- 需要100個の場合
- 100×0.5+50×0.1-150×0.3=10万円
- 需要150個の場合
- 150×0.5-150×0.3=30万円
- 需要200個の場合
- 売れるのは150個までなので同上
期待利益:0.2×10+0.5×30+0.3×30=26万円
C案
200個発注
- 需要100個の場合
- 100×0.5+100×0.1-200×0.3=0万円
- 需要150個の場合
- 150×0.5+50×0.1-200×0.3=20万円
- 需要200個の場合
- 200×0.5-200×0.3=40万円
期待利益:0.2×0+0.5×20+0.3×40=22万円
期待利益が最も高いのは、B案(150個発注)です。
期待値が必要な理由
組織で何かを選択することは、反対意見を持つ人からの軋轢を生みます。期待値は、その選択肢を平均的な結果で比較することができるのです。
例えばタルムードには、以下のような逸話があります。
彼はある女性の血を夜に見て「不浄」と判断し、翌朝に見直すと色が違って見えて「清浄」と判断し直し、さらに1時間後にまた見て再び「不浄」としました。
タルムード自身はその理由を、「裁く者は、その時点で自分の目に見えるものに基づいてしか裁けない」と説明しています。
意思決定する段階では、どの選択が正解なのか証明することはできません。


タルムードとは、ユダヤ教の律法と倫理・哲学・物語・伝承を集めた文書集で、主にヘブライ語とアラム語で書かれています。
最後に
今回は、意思決定を数値で表すことができる期待値の計算式と、その活用方法について解説しました。










