商流とは?生産性を落とす日本の商流について、現役の商社マンがご紹介します。

私は現役の商社の営業マンでありながら、商流のあり方に疑問を持っています。

多くの取引先を持つ、つまり多くの商流を持つ一部の商社が市場取引を独占し、直販可能なスタートアップやデジタルプラットフォーム型のメーカーが活躍する場を奪っているからです。

今回は日本における商流の歴史から、他国を比較したその特異性、また今後の展望についてご紹介します。

目次

商流とは

商品やサービスが生産者から消費者に届くまでの流れのことを、商いの流れ(省略して商流)と呼びます。これは単なる物流だけではなく、取引契約や情報のやり取り、支払いなどすべての流れがこの商流を基に行われます

製造業が商社を介す理由

製造業において、自社工場への投資はほぼすべて商社や仲介業者を介します。

  • メーカーが倒産や廃業した場合、対象の設備や部品の代替品を選定・納期調整を行う必要がある為。

商社は常に仕入先の与信管理を行います。与信管理とは、会社が取引先から代金を回収できないリスクを最小限に抑えるために、取引先を管理する活動を言います。しかし与信管理は、既に多くの会社が自社の管理部門で行なっています

また代替品の選定に関しては、守秘義務契約上倒産もしくは廃業したメーカー自身が図面開示に応諾しなければできません。納期の調整に関しても、最終的な決定権はユーザー側が有します。

つまり、一連の流れに商社が決定権を有するものはなく、誰がやるかが変わるだけです。この理由では、日頃から仲介手数料を支払う理由にはなり得ません。

小売業が商社を介す理由

小売業では、商品棚により商社や仲介業者を介す棚、介さない棚が分かれています。

  • 売り場における商品レスのリスクを避けられる。

一般的にB2C製品を扱う商社は、自社の棚の商品陳列、顔出し作業、発注、品出し作業を行います。しかしその分、店舗側からするとその商品の粗利益は他の棚と比べ落ちてしまいます

本来、店舗で発生する業務は店舗で完結した方が、その粗利益をセール時の値引きや、従業員の給与還元に繋げられられます。こちらも同様に、誰がやるかが変わるだけです

【業界共通】商社を介す理由

  • メーカーの商品やサービスの品質を保証してくれる。

製造業や小売業に限らず、品質の問題は多くの場面で発生します。基本的には品質の改善をメーカー側へ促しますが、追加費用が発生する場合も多々あります。その場合、仲介である商社が費用を負担します。

しかしその負担分の費用は、仲介業者がいなければ十分ペイできる金額であることを忘れてはいけません。また昨今の下請法により、納品後の支払い拒否は両社が応諾しない限り難しくなっており、この理由が機能しなくなっています。

  • 商社が消耗部品を在庫として保管することで、安定した納期で商品供給が可能。

商社や仲介業者は安定した商品供給を行う為、消耗品を在庫で持つことがあります。得意先としては回転の早い商品に柔軟に対応できる為、大きなメリットになります。

しかし商社にとって、在庫品の割合は右左品(非在庫品)と比較して圧倒的に少ないのが一般的です。右左品は商品が商社を介す為、納期が大きく伸びてしまいます。

商流の歴史

ではなぜそのような商流が日本で受け継がれてきたのでしょうか。現代においては非合理的な側面が目立ちますが、一昔前ではそれを上回るメリットがありました。

財閥企業のネットワークを利用できた

戦後の日本では、GHQにより解体された旧財閥系の商社が商流構造を確立してきました。当時はインターネットやテレビ、電話がまだ普及しておらず、会社情報の取得には莫大な工数を必要とする時代でした。

当時の倒産・廃業件数は現在と似た水準であり、年間で1万件前後に達します。そんな時代に目的の商品やサービスを取り扱う会社を探し、かつ与信調査まで行うのは困難を極めます。

そこで、当時社会主義構造における市場を独占してきた財閥系の会社に需要があったのです。これは現在でも受け継がれており、多くの取引先を抱える総合商社・専門商社は、旧財閥系の会社が関わっています。

商流の固定化を助長した利権社会

商流が現在まで受け継がれた過程において、接待や利権の要素も一定の役割を果たしてきました。

  • 取引を円滑に進めるために「接待」がビジネスの一部として認識された。
  • 企業間の長期的な関係を築くために、宴席や贈答などの「儀礼」が重視された。
  • 卸業者や下請け企業を自社の「系列」として囲い込み、競合の参入を防ぐ形が取られた。
  • 利益供与や長期契約により、特定企業との関係を強固にし、新規参入を阻む構造を形成。大手商社はこの傾向が強く、取引先と株式を共有している場合も珍しくありません

他国との違い

では日本の商流は、他国と比較しどのような相違点があるのでしょうか。ここでは、アメリカ、中国、ドイツと比較した場合の相違点をご紹介します。

流通構造の違い

スクロールできます
項目日本アメリカ中国ドイツ
主な流通構造系列取引直販プラットフォーム直販
中間業者
重視する項目信頼関係生産性柔軟性品質・効率性
物流スピード遅いが安定・精密迅速かつ広範囲即日配送が主流正確で時間厳守
政府の影響少ない少ない大きいEU規制の影響あり

日本の商流は、長期的な信頼関係を基盤としたネットワークを特徴とする一方、アメリカや中国ではよりシンプルかつデジタル化された商流が主流です。ドイツでは品質と効率を重視し、サプライチェーン全体の最適化が図られています。

日本の商流の特徴

  • 多重階層流通
    • 卸売業者が多数介在し、メーカー → 一次卸 → 二次卸 → ユーザーという多層的な流通網が特徴。
    • 特に伝統的な業界(食品・建材・機械など)では、仲介業者が市場調整を担っている
    • 例:食品業界では商社や卸売業者を通じて商品が市場に流れる。
  • 関係重視・長期取引
    • 取引先との信頼関係を重視し、長期的な関係を維持する傾向が強い。
    • 「系列」関係が強く、特定の企業グループとの取引が継続されることが多い。

アメリカの商流の特徴

  • ダイレクト流通
    • メーカーが直接小売業者や消費者に販売する傾向が強い。
    • 流通の効率化を重視し、仲介業者を最小限にすることでコスト削減。
    • 例:AmazonやWalmartなどの巨大小売企業が直接サプライヤーと取引し、消費者へ迅速に配送。
  • デジタルプラットフォームの活用
    • Eコマースが発達し、流通網がデジタル化されている。
    • B2C、B2Bのダイレクト販売が拡大している。

中国の商流の特徴

  • 高速な流通ネットワークとデジタル化
    • アリババ、JD.comなどのプラットフォームが市場を支配し、流通の大部分をECが担う
    • ラストワンマイル配送の高度なネットワークとスピード配送が強み。
  • 政府の影響力が大きい
    • 政策により物流や流通ネットワークが整備される。
    • 一部業界では政府の介入や規制が強く、流通ルートが限定される。
  • 柔軟なビジネスモデル
    • サプライチェーンが柔軟で、短期間での市場適応が可能。
    • 例えば、D2C(Direct to Consumer)モデルが急成長している。

ドイツの商流の特徴

  • 効率性と品質管理の重視
    • 物流・サプライチェーン全体の最適化を追求し、無駄の少ない流通網が特徴。
    • 「ジャスト・イン・タイム」生産方式が普及し、在庫管理の効率化が進んでいる。
  • 規模よりも品質を重視
    • 高品質な製品を小規模な専門小売店を通じて流通させる文化が根付いている。
    • 地元企業との連携が多く、サプライヤーと強固な関係を築く。
  • EU統一市場との連携
    • ドイツの流通はEU域内市場と深く結びついており、他国との統合物流が進んでいる

参考文献:経済産業省 米国商務省 中国商務部 ドイツ経済省 Eurostat ITC Trade Map

まとめ

今後日本が競争力を高めるためには、中間業者を削減しデジタル化を推進することが重要です。しかし日本における商流は、長年の歴史や利権が複雑に絡み合っており、そう簡単に変化することはできません。

大切なのは、各々のビジネスマンが自社の流通構造を把握し、どのような構造が最適なのか考えることです。それが結果として、今後の日本を良い方向に赴いてくれます。

今後も現代のビジネスマン向けに情報を発信していきますので、本ブログをブックマークして頂けますと幸いです。

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