私は現役で商社の営業マンをしています。
仕事で企業間取引をしていると、「なぜ取引先によって仲介業者がいるのか?」疑問に思うことがあります。
今回は、日本の商取引(B2Bトレード)における、「商社」や「仲介業者」を介す意味(付加価値)をご紹介します。

- 仲介業者がいる意味がわからない人
 
仲介するデメリット
まず「商社」や「仲介業者」を介すことのデメリットを見てみましょう。
タスクの遅延
企業間取引では、以下のステップを取引ごとに行いますが、一社介すごとにそのタスク(遅延)が2倍になります。

日々変化する市場環境において、タスクの遅延は死活問題であり、これが商社・仲介業者を介す最大のデメリットです。
購入金額の増加
商社や仲介業者における、中間マージンの平均粗利率は『5~10%前後』であり、その費用は顧客が負担します。もしそれが「回転率」や「単価」の高い商材の場合、それだけで莫大な出費が必要になるのです。
またサプライヤーも、単価が上がるほど直接取引をしている競合他社に「相見積もり」で負けてしまう可能性があり、これは顧客・サプライヤー双方にとってのデメリットになります。
くろひつじ近年のコンプライアンス強化に伴う「相見積もり」徹底により、国内の企業間取引は直接取引が主流になりつつあるんだ。「商流のある取引」は例外だけどね。


競合他社が介入(相見積もり)することが不可能な、一社選定の商取引を指します。例えば顧客が、図面開示のされていない機械設備の部品を購入する場合、設備導入時に仲介した業者へ依頼する必要があり、もしサプライヤーへ直接取引を希望しても、正当な理由がない限り拒否されます。
情報の非対称性
顧客の購買担当者は、仲介業者やサプライヤーから見積もりが来たら、内容が適正かを精査します。
その際、度々仲介業者やサプライヤーと見積もり内容の質疑を行いますが、中間コスト増加分は適正価格の説明がつかず、内訳や原価情報がブラックボックス化しがちです。
原材料価格の変動による納入価格上昇の妥当性を検証しようにも、間に複数の仲介がいると真因を突き止めにくく、結果として組織ぐるみのコストインフレを招くことがあります。
伝言ゲームの乖離
商社や仲介業者を介すのは取引だけでなく、メールや電話も例外ではありません。
取引する業態・業界に専門性を要するほど、少しのコミュニケーション不足や聞き間違いにより、顧客とサプライヤー双方で「認識の相違」が発生します。
企業間取引は「信頼関係の構築」が最重要であり、認識の相違により「良かれと思ってやったこと」すら裏目に出る可能性があります。
商社・仲介業者の付加価値
次に、「商社」や「仲介業者」を介すことのメリットを見てみましょう。
上述したデメリットを凌駕するほどのメリットが存在するかは、以下のような役割を「商社や仲介業者が果たしているか」によって変わります。
与信取引
商社や仲介業者は、取引先に対して””銀行“”のような『代金回収や商材に対する信用・保証』を提供します。
企業間取引における「検収条件」や「支払い条件」は、その取引ごとに双方で取り決めし、仕様書や注文書に記載する義務があります。
しかし、それらの条件が同意を得られず、例え必要な商材でも取引に至らないケースも珍しくありません。


顧客がサプライヤーへ支払いOKとする条件(基準)を指します。有形物の場合、商材が出荷した時点で条件を満たす「出荷基準」。無形物の場合、顧客の定めた条件で満たす「検収基準」が一般的です。
例えば建設業界は、重層下請け構造により、サプライヤーも外注先への支払い義務が生じます。この外注への支払いが顧客からの支払いより早い場合、サプライヤー(下図でいう”下請”)は黒字倒産するリスクが上がるのです。


この状況を回避できるのが商社や仲介業者であり、顧客・サプライヤーとの支払い条件の調整(立替払い)や、商品の不具合による支払い延長の了承(品質保証)、また場合により追加費用の支払いも行います。
与信管理
企業間取引では取引口座開設前に、必ず相手企業の「与信管理」を行います。
与信管理とは、取引先の倒産リスクを最小限に抑えるため、取引開始前に会社情報(法人名、法人番号/登記情報、設立年月、事業内容、資本金、従業員数など)を調査することを指します。
商社や仲介業者は取引自体を仲介するため、この与信管理を代行してくれる役割を持ちます。特に「資金繰り」や「情報」に強い商社は、この特性が好まれるのです。


例えば金額の大きい設備を制作途中に、
- 顧客が倒産した場合…それまで制作した代金を回収できないリスクが生じます。
 - サプライヤーが倒産した場合…代替え品の選定、指定納期調整などのタスクが生じます。
 
商社や仲介業者がいることで、これらのリスク・タスクを代行してくれるのです。
営業代行
商社や仲介業者を介すことは、ユーザーに合わせた(顧客志向の)営業をする、いわゆる””営業代行“”の付加価値を持ちます。
在庫管理
商社や仲介業者のB2Bトレードでは、回転率の高い商材を自社在庫で保管し、発注~納品のリードタイムを削減することがあります。


在庫管理だけでなく、配達や代金回収、納品後のフォローまで行なってくれるため、取引先が全国に点在する場合や、少量多頻度の配送ニーズがある場合、仲介業者経由の方が効率的です。
通関・貿易実務の代行
商社は、輸出入時の輸送手配や通関手続き、またSV(スーパーバイザー)の航空券手配・保険手続きまで代行してくれます。
国により通関・貿易実務や法務対応の複雑さが異なりますが、特に発展途上国へ出荷する際は商社経由の方が好まれます。
実際にOECDによる推計では、国境手続きの効率化だけで、貿易コストが12~18%減を見込めるとのデータがあり、これは商社・仲介業者の平均粗利率より高くなります。


SV(スーパーバイザー)とは、現場の監督者・管理者を指します。国内製品を国外へ出荷する際、現地での据付・調整作業を要する場合には、製品の他に現地人を指揮する「監督者」も派遣することがあります。
情報共有・営業代行
特に商社は、国内外問わず様々な販売ネットワークを持ち、それを取引先に共有することができます。
サプライヤーが国内外の新規開拓や市場調査をする際、そのマーケティング(営業)コストが膨大にかかりますが、それを国内の商社数社に絞ることで、コストを大幅に圧縮できるのです。
最後に
商社や仲介業者を介すことに対して、””手数料が高い=不要論””は早計であり、企業間取引には様々な隠れコスト(調査/通関/与信/在庫など)が存在します。


https://itsumo365.co.jp/blog/post-21561/
2021年の卸売業の年間販売額は、小売業の2倍以上になるデータもあり、未だ日本国内の多くの企業が、仲介する選択をしているのが実情です。
特に日本の総合商社は、単なる流通業者に留まらず、事業投資や資源開発・コンビニ経営まで手広く事業展開し、グローバルに見ても類を見ない存在です。
5大商社の特徴は以下のブログでご紹介しておりますので、ぜひ合わせてお読みください。


今回は、日本の商取引(B2Bトレード)における、「商社」や「仲介業者」を介す意味(付加価値)をご紹介しました。
今後も現代のビジネスマン向けに情報を発信していきますので、本ブログをブックマークして頂けますと幸いです。





