
- 営業や販売員に従事している人
- 中小企業の経営者
高い商品は一時的な誇張や販売力で売ることは簡単ですが、リピート販売に持ち込むには相応の付加価値を付与する必要があります。
本記事では、高額商品を継続的に売るために必要な付加価値の作り方を、具体的な成功例・失敗例を基に解説します。
高額商材の成功例
まず、実際に他社より高い価格設定の商材を販売しているのにも関わらず、経営が成り立っている(リピーターがいる)ビジネスを見てみましょう。
星野リゾート
星野リゾートは日本各地で高級旅館・ホテルを展開するリゾート運営会社です。
「星のや」「界」「リゾナーレ」など複数の宿泊施設を持ちますが、いずれも同地域の平均より高めの宿泊単価に設定されています。例えば代表的な「星のや京都」の宿泊費は、1泊当たり5万円以上/人にも上ります。
それにも関わらず、星野リゾート全体の『客室稼働率は約80%』と高水準で、宿泊者の20%以上がリピーターとされています。高価格帯宿泊施設で、これほどのリピート利用が多いのは極めて特徴的です。
くろひつじ因みに一般的なリゾート施設の客室稼働率は、下図の通り50%前後になるんだ。


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星野リゾートの差別化ポイント
星野リゾートは「リゾート運営の達人」を理念に掲げ、サービス品質を徹底しています。
例えば滞在中の何気ない会話から「生野菜が好き」「◯◯が苦手」といった顧客個人の好みを推察し、それを全社のデータベースに蓄積するのです。
これにより、次回来訪時にはそのデータを基に生野菜を多めに用意し、苦手な食材は避けるなど、顧客一人ひとりに合わせた「おもてなし」を実現しています。
割引よりもブランド
星野リゾートは価格ではなく、体験・価値で勝負する姿勢を明確にしています。
会員制は存在するものの、割引よりも「情報提供」や「先行予約」を優先しており、宿泊を単なる『部屋の提供』と捉えず、その土地でしか成立しない体験を提供しています。
星のや竹富島の「琉球文化」


星のや竹富島【公式】 | HOSHINOYA Taketomi Island
星のや界津軽の「伝統工芸」


スターバックス
スターバックスは世界的なコーヒーチェーンで、日本国内にも多数展開しています。
一杯300円台のコーヒーが主流だった市場で400円~600円程の価格設定を行い、客単価は他チェーンより高くなります。にも関わらず、日本でも安定したファン層を築き、行列ができる店舗も少なくありません。
他チェーンとの比較
スターバックスは高価格帯のイメージがありますが、実はコーヒーSサイズの価格はコメダ珈琲・タリーズと比べ低価格です。
一方、客単価は「季節限定メニュー」や「カスタマイズ可能なメニュー」により、他の珈琲チェーン店よりやや高くなります。
| 項目 | コメダ珈琲 | スタバ | ドトール | タリーズ |
| コーヒー(S) | 460円 | 380円 | 280円 | 390円 |
| 客単価 | 約1,500円 | 約1,000円 | 約500円 | 約900円 |
| メニュー | フード+ドリンク | フード+ドリンク | ドリンク中心 | フード+ドリンク |
| 回転率 | 低 | 中 | 高 | 中 |
| ターゲット | ファミリー層 | 若年層 | 中年層 | 若年~中年層 |
| 立地 | 郊外 | 都心・一等地 | オフィス街・駅近 | 商業施設 |
コンセプト
- コメダ珈琲:くつろぐ、いちばんいいところ
- スタバ:サードプレイス
- ドトール:すべての今日を、支えていく
- タリーズ:Taste the Difference
スターバックスの主要顧客は珈琲ではなく、「第三の居場所」や、季節限定メニューの「目新しさ」、カスタマイズ可能なメニューの「エンターテイメント性」を目的に来店しています。
価格帯や回転率が近しいタリーズと比べても、売上高・売上総利益ともに圧倒しており、スタバは2023年9月期の売上高が2,894億円である一方で、タリーズは2024年4月期の売上高は402億円に留まります。
高額商材の共通点


高価格帯でもリピーターが途絶えない商材には、『一見目的とは異なる付加価値を提供している』という共通点があります。
珈琲チェーン店
- 目的:美味しい珈琲を飲む
- 付加価値:第三の場所
宿泊施設
- 目的:部屋の提供
- 付加価値:体験・価値
つまり高額商材を売るには、「売る過程」もしくは「購入後の過程」で、顧客が潜在的に求めている体験を提供すれば良いのです。
高額商材の失敗例
では、高額商材を販売するための付加価値の提供がどれ程難易度が高いのか、実際の失敗例を基に見ていきましょう。
結論から言うと、失敗した原因は共通して『顧客のニーズと高額商材に付与した付加価値のミスマッチ』によって起こります。
Amazonのスマホ事業


2014年にAmazonは、高価格帯のスマートフォン「FirePhone」を発売しました。販売価格はハイエンド帯に設定され、既に成熟したスマホ市場に後発参入した形になります。
3D表示のDynamicPerspective機能や、「カメラで物を撮影するとAmazonで購入できる」Firefly機能を搭載し、Amazonプライム・Kindleサービスとの連携を狙いました。
失敗要因
しかし、目玉だった3D表示は実用性に欠け「単なるギミック」と受け止められ、OSがGooglePlay非対応により「アプリ不足」という批判もされました。
対して価格はiPhone並みの高価格設定で、結果的にAmazonのコアユーザー層にも受け入れられず、発売から約1年で生産終了に追い込まれ、Amazonはスマホ事業から撤退しました。
経営への影響
Amazonのスマホ事業撤退に伴い、在庫の大半は投げ売りされ、約1.7億ドルの損失計上をしたと報じられています。(在庫評価損として公表)
以降Amazonはスマホ事業をやめ、EchoスピーカーやFireタブレットなどのホームデバイスに注力し、成功しています。
ソニーのQUALIAブランド


2003年、ソニーは当時の出井伸之CEOの下で、高級AV機器ブランド「QUALIA(クオリア)」を立ち上げました。
100万円を超えるプロジェクター・液晶テレビ・カメラ・オーディオを発売し、銀座や心斎橋の専用ショールームで限定販売しています。
しかし、超小型デジカメ「QUALIA 016」は品質管理の問題で回収となり、液晶テレビ「QUALIA 005」は三原色LEDバックライト仕様にも関わらず、画質が翌年発売の量産機「BRAVIA」以下でした。
失敗要因
当時ソニーが出井伸之CEO旗振りのもとで推進したのは、『人の心に訴えるモノづくり』です。
これはQUALIAブランドに「手作業による職人技」を組み込むことで、高級腕時計のようなブランド価値を構築する戦略でした。
しかし、ソニーは既に「手頃な価格で高品質」のブランド認知が強く、突然の高価格帯路線は既存ブランドとの乖離がありました。結果的に、ソニーは市場ニーズを無視した理想を優先したため、顧客の共感を得られませんでした。
経営への影響
QUALIA製品は、2005年6月に新規開発停止が発表され、2006年3月にプロジェクトが正式終了しています。
ソニーはこの失敗以降、「ユーザー視点の価値提供」の重要性を再認識し、高級オーディオ路線(Signatureシリーズの高級ウォークマンなど)では徐々に成果を出すようになります。
高額商材を販売するには
上述したように、高額商材を売るには「売る過程」もしくは「購入後の過程」で、顧客が潜在的に求めている体験を提供するのが唯一無二の方法です。
そしてその体験は、製品以外に付与するモノ(製品品質が良いのは大前提)であり、かつソニーの失敗例が示したように「自分が与えたいもの」ではなく「顧客が求めているもの」であることが成功条件になります。
これは現場の営業・販売員であろうと、組織を指揮する経営者であろうと共通している要素です。
B2B営業の場合
では、高額商材を販売するために必要な付加価値には何があるのか、実例を用いて考えてみましょう。
B2B取引では製品以外にも様々な付加価値が存在しますが、その分野専門で事業を展開しているのが私たち商社です。
与信取引
企業間取引では「検収条件」や「支払い条件」を取引ごとに取り決めし、仕様書や注文書に記載しています。しかし製品の制作過程や納入過程で、度々責任区分の曖昧な問題が発生し、揉めることが少なくありません。
商社はその取引自体を仲介し、仕入先への先行支払いや顧客からの支払い遅延の了承を行うことがありますが、これは商社に限らず、営業個人でも行える顧客主体の要素の一つです。
何にでも譲る精神は自身を破滅させる危険性がありますが、返報性の原理を理解している相手に恩を売ることは、顧客にリピート購入する理由と体験を与えることができます。
タスク軽減
企業間取引において、顧客も仕事として、また組織の代表としてその製品を購入しています。
巨大な組織ほど製品を1つ購入するだけで膨大な稟議フローを持っており、購入前の調査のタスクもまた高負荷です。
営業は製品を紹介するだけでなく、競合他社の情報提供や、場合によっては顧客の購入前調査も請け負うことで、製品以外の付加価値を提供することができます。
商社の付加価値については以下のブログで解説しておりますので、ぜひ合わせてお読みください。


B2C販売員の場合
B2C販売員の強みは、不特定多数向けに商材の訴求ができることです。
来店者(もしくは訪問先)という縛りはあるものの、販売員の労力が続く限り訴求先に制限はありません。
よって、B2C販売員が高額商品を販売するには、商材以外の体験を提供するというより「ターゲットを富裕層に絞り」「会話の中で商材の魅力を認識してもらう」方法が最も効率的です。
ロープレ(共感・質問・肯定・提案)
以下に具体的なロープレを示します。
顧客と単発的な会話で信頼関係を築くには、例え「商材が高い」というネガティブな言葉でもまず共感することから始まります。



この商品高いな~。



そうですよね。
その上で、顧客の背景が自社の販売する製品ニーズを捉えているのか会話の中で判断します。



ただお客様、こちらの商品当店で一番の売れ筋でして。お客様はどのような商品をお探しでしょうか。



うーん、、コスパの良いものがあれば良いなと思ってます。



仰る通りコスパは重要ですね。
本来商材を選ぶ基準は個性が出るものではなく、誰しもが他店または他商品と比べて「コスパの良いもの」もしくは「リセールが良いもの」を好みます。
この2点を求められた際の切り返しを準備しておけば、顧客に商材の魅力を認識してもらうことができます。



お客様、先ほど高いと仰ったこちらの商品、実は耐久性・機能性が高く最もコスパが良いものでして。もし宜しければ詳しくご紹介しますがいかがでしょうか。
もしここでニーズが合わないと判断すれば、次回来訪する顧客に集中しても良いのが、不特定多数向けに訴求ができるB2C販売の強みです。
中小企業経営者の場合
中小企業の経営は間接業務に当たるため、高額商材を売る側ではなく『売れる仕組み作り』をすることが仕事です。
その方法は多岐に渡りますが、基本的な考え方は以下の3点です。
- 大企業では再現不可能な「価値」で勝負する。
- 80点を合格ラインとし、100点を目指さない。
- あらかじめ撤退基準を設け、限られた予算・時間の中で提供する。
中小企業経営者にとって、自社の提供する体験が顧客のニーズを捉えているかはそれほど重要ではなく、「捉えていなかった際の転換スピード」が最も意識すべき要素です。
合格ラインを下げることは、無駄な時間を省くことに繋がります。60点→80点より80点→100点の方が遥かに難しく、かつリターンも総じて小さいのです。
また、あらかじめ撤退基準を設けることで、提供に費やしたお金や労力の未練を断ち切り、こちらも無駄な時間を省くことに繋がります。


大企業はその資本を用い『大量調達・大量生産・物流最適化』で原価を下げることができますが、中小企業は同じ値下げをすると利益が先に消えます。また値下げでは差別化になりにくく、大企業が追随(一時的に赤字でも)できるため、長期戦ほど資金体力の差で負けやすくなります。
最後に
今回は、高額商品を継続的に売るために必要な付加価値の作り方を、具体的な成功例・失敗例を基に解説しました。










