
- 営業マンに不信感を持つ人
- 営業職に就いている人
営業は商品やサービスを販売する過程で、時に「嘘」とも捉えられる発言や誇張をすることがあります。
本記事では、「営業の嘘は成果につながるのか」というテーマについて、ダークトライアド研究や信頼に関するデータをもとに実務目線で解説します。
営業の「嘘」とは
営業の嘘とは、取引先への「誇張表現」や商品・サービスに関する「虚偽」、また事実関係が明らかでない「憶測」や、いわゆる「善意の嘘」まで幅広く含まれます。
例えば、実際には在庫が十分にあるにもかかわらず「これが最後の在庫です」と述べて購買を促すのは、典型的な営業上の「誇張表現」です。
こうした小さな嘘は一見無害に思えるものの、顧客に真実が伝わった際には、例えそれが「善意の嘘」であっても信頼関係を失い、会社に深刻なダメージを与えかねません。
短期的な商売と長期的な商売
短期的な商売と長期的な商売では、「嘘」をつくことのリスクが異なります。
例えば昨今話題となっている商業施設でのウォーターサーバー販売は、顧客とのトラブルが後を絶たない一方で、未だ商売として現存しています。
新野くんよく聞くけど、ウォーターサーバーってどんなスキームで勧誘してるの?



代表的なのは「レンタルと思わせて購入プランの契約をとり、解約時に高額な残債を請求する」ってものだね。
ウォーターサーバーに限らず、不特定多数向けの短期的な商売を主とする業界では、一部の人からの信頼を無くしても、新規ユーザーを獲得し続けてしまう実態があります。
一方で、顧客の数が限られ、かつ1件当たりの受注金額が莫大なB2Bの商売では、このような信頼を損なうトラブルがあった場合、資金回収ができず会社が倒産してしまうリスクが伴います。
営業のイメージ
営業職に対する世間の目は厳しく、「営業マンは信用できない」という考えを持つ人が、現代でも根強く存在します。
少し古いデータになりますが、2011年にギャラップ社が行った世論調査によれば、不動産業者の誠実さ・倫理基準を「低い」または「非常に低い」と評価した人は22%にのぼり、「高い」「非常に高い」と評価した20%を上回りました。
これは不動産業者に限らず、自動車販売や訪問販売などの、営業職全体で統一している課題と言えます。業界に関わらず、笑顔で近づいてくる営業マンに不信感を抱いてしまう人は、少なくないでしょう。
参考文献:道徳的判断による営業パフォーマンスの向上|Baylor University
ダークトライアドと営業成績
成約を求めて「嘘」をつく営業マンを特定の枠組みの区分すると、ダークトライアドの「マキャベリスト」に分類できます。


ダークトライアドとは、以下三つの人格特性の総称を指します。
- ナルシスト…自己愛と自己誇大感に満ちている。
- サイコパス…反社会的傾向や共感力の欠如がある。
- マキャベリスト…他者を操り目的達成のために手段を選ばない。
成功する営業は「誠実」で「外交的」なイメージが持たれますが、一方で近年、ダークトライアド傾向の強い人々が営業で成功しやすいのではないか、という議論もされています。
ダークトライアドの特性
ニューハンプシャー大学、テキサスA&M大学、フロリダ州立大学らの研究では、マキャベリスト・ナルシスト・サイコパスそれぞれの特性が、営業成績に与える影響を比較しています。
マキャベリスト
マキャベリストは短期的な成果は目立ちませんが、時間の経過とともに長期的な業績向上が現れる傾向があります。
戦略的な考えを巡らせるこのタイプの営業は、入社当初は組織内での立ち回りや、顧客の特性に関する知見を増やし、自身が有利に働くストーリーを徐々に作り上げていきます。
そうして組織に順応しながら徐々に成績を伸ばし、最終的には平均を上回る業績を上げるのです。このためマキャベリストは「遅咲き」であり、長期的には営業で成功しやすい特性と言えます。
ナルシスト
ナルシストは短期的な営業成績で優位に立つものの、その効果は長続きしません。
自己愛が強いこのタイプの営業は、当初は高い自信とカリスマ性によって、平均を上回る成果や成約率を叩き出します。しかし時間が経つにつれてその優位性は薄れ、長期的には平均以下の成績に落ち込むとされています。
これは自己愛的性格が、時間の経過とともに周囲との軋轢を生み、顧客や同僚からの評価が低下するためと考えられます。
サイコパス
サイコパスはナルシスト同様、短期的には成績向上が見られます。その大胆さや恐れの無さが、入社当初は有利に働く場合があるのです。
しかし、長期的にはその効果は消え、最終的な業績は平均並みに留まります。冷淡で共感に欠ける言動が、顧客との長期的な信頼関係構築を阻み、伸び悩むためです。
参考文献:優れた営業マンとは何か?|Gatton College
マキャベリストが成功する営業環境
またマキャベリストは、すべての営業環境で長期的な成功を収めるわけではありません。
ロヨラ大学の論文によれば、自由裁量の大きい緩やかな組織では、マキャベリストがそうではない人より優れた成績を収める一方で、ルールや手順が厳格に定められた硬直的な組織では、マキャベリストの成績が劣後すると報告されています。
これらの点から、「自由裁量の大きい中小企業のトップ営業マンには、マキャベリストが多い」という命題には一定の論拠があるように思えます。
参考文献:マキャベリズムと営業成績|Loyola eCommons
サイコパスが多い職業
なお、英ケンブリッジ大学の心理学者ケヴィン・ダットン氏によれば、「サイコパス傾向の人が多い職業」の第4位が営業職となっています。
| 順位 | 職業 |
| 1位 | CEO |
| 2位 | 弁護士 |
| 3位 | テレビ・ラジオのキャスター |
| 4位 | 営業職 |
| 5位 | 外科医 |
| 6位 | ジャーナリスト |
| 7位 | 警察官 |
| 8位 | 聖職者 |
| 9位 | シェフ |
| 10位 | 公務員 |
参考文献:サイコパスが選ぶ職業トップ10|Business Insider
営業が「嘘」をつくべきでない理由
どれほど巧妙な嘘を付いたとしても、その嘘が顧客に知られた際には長期的な信頼が失われます。
2024年にForrester社が行った調査によれば、取引先との信頼感が醸成されている場合、そうでない場合に比べて取引する可能性が約2倍に高まった(85%対48%)と報告されています。
つまり「信頼」という付加価値は、購買意欲を2倍に高めるほどの効果がありながら、「嘘」にはこの信頼関係を一瞬で払拭するほどのリスクを持つのです。
参考文献:信頼という要素:BtoBをBwBに変える|Forrester
会社の風土との関係性
行動経済学の視点では、営業マンがつく「嘘」は、会社の風土(インセンティブ設計)や業界の特性(情報の非対称性)と深く関係しています。
例えば、給与体系が完全歩合制で、短期的な売上目標ばかりを意識すると、倫理より利益を優先する行動が生じやすくなります。
また、営業マンが商品について詳細な情報を握り、顧客がそれを知らない状況では、売り手に「不利な情報を隠してしまおう」という誘惑が生まれがちです。
社会への影響「レモン理論」
経済学者ジョージ・アカロフ氏の理論「レモン市場」では、このような「嘘」が常態化される状況は、社会全体に悪影響を与えてしまうことを示しています。


情報の非対称性により、売り手と買い手の間に品質格差が存在し、粗悪品のレモンばかりが流通し、高品質な商品が市場から駆逐されてしまう現象を指します。
- 買い手は品質を見分けにくい→売り手が粗悪品を平均的な価格で供給する。
- 良品の売り手が損をする→良品の供給が市場から淘汰。
- 市場に残るのはレモンが中心→品質がさらに低下し価格も下がる。
営業が「嘘」をつく行為は、時にプラスの効果を持つ可能性があります。
しかし、その嘘が社会全体へ及ぼす悪影響は、長期的には会社・業界に損害をもたらす可能性があるのです。
最後に
今回は、「営業の嘘は成果につながるのか」というテーマについて、ダークトライアド研究や信頼に関するデータをもとに実務目線で解説しました。


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